金継ぎ その二

 

金継ぎの話のつづき

 

◯何故漆なのか

金継ぎには接着剤として漆が使われています。

現在では様々な種類、用途の接着剤が開発されていますが、それでも漆を使うべきなのでしょうか。

答えは「漆を使うべき」です。

漆に関わる仕事をしているんだから当然なんですけど、ちゃんと理由があるのです。

 

理由「安全性」

金継ぎに漆を使って欲しい最大の理由がこれ。

漆は数千年前から使われてきました。

最初は接着剤として使われ、そのうち塗料として食器に塗られる様になりました。

科学的にも完全に降下した後の漆は非常に安定した物質で、耐油・耐薬性に優れ、ほとんどの金属を溶かす「王水」と呼ばれる超強力な酸にも全く影響を受けない特性を持っています。

更に漆が高い抗菌作用を持つことも実験で証明されています。

漆についた大腸菌が24時間で死滅したという結果が出ているそうです。

以上の理由からも食品に直に触れる食器の修理に100%自然の素材である漆を使うことは理にかなっているのではないでしょうか。

 

ところが最近は「簡単金継ぎセット」なるものがホームセンターなどで売られているそうです。

これはエポキシ接着剤にパテ、「カシュー漆」という漆ではない塗料で構成されるセットで、簡単に金継ぎを楽しめるものです。

では何故こういったものが人気があるのでしょうか。

それには「漆の金継ぎの欠点」を考えてみる必要があります。

 

「漆の金継ぎの欠点」

・カブれる

漆が敬遠される最大の要因はここにあると思います。

たしかに液体の状態の漆はカブれます。

痒いです。

幸い私は掌以外の場所に漆がついてしまって気付かず放置してしまった時に痒くなる程度ですが、ひどい人は人相が変わってしまうほど腫れてしまう人もいます。

(こういう怖がらせることを漆職人が言うのは、多分に「こんな大変なことをしてんだぞ」という中二病的心理と、漆が危険なものと触れ込むことによって参入障壁を上げているという面があるとひそかに思っています。

「手に付かないように手袋を必ずしてください」っていうモノは結構ありますよね。

漆もそれらと同じ扱いをすればほとんど問題ないと思っています…)

 

・時間がかかる

現代人はとにかく忙しい。

「ていねいな暮らし」の代表格である金継ぎにも「時短」が好まれます。

と皮肉ってもいられないほど漆の硬化には時間がかかるのです。

 

先ず割れた皿をくっつける漆が完全に乾くまでに一ヶ月から長くて半年もかかる場合があります。

それから金を蒔くまでに何工程もありますし、作業が完了しても完全に降下させるまで、できれば最低一ヶ月は使わないほうがいいと思います。

とにかく漆は時間がかかるのです…

 

・高い

本物の漆と金粉は高いです。

壊れた器の修理に使うには高すぎます。新品のお皿が何枚も買えます。

お宝級のお皿の修理に使うならまだしも、普段使いのお皿の修理には安い材料を使いたくなるのは当然でしょう。

 

といったように漆の金継ぎは「ちょっとやってみたい」という人にはハードルが高いところがあります。

ですから「簡易金継ぎセット」は金継ぎの世界への導入としては悪くはない方法ではないでしょうか。

あくまでその先に「漆の金継ぎ」がある前提で。

私も簡易金継ぎにチャレンジしてみようと思っています。

ではまた。

 

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金継ぎって?   最近金継ぎについて調べています。 金継ぎとは割れた陶器やガラスの器を漆で接着し、その割れ跡に金粉などを蒔いて化粧をする修理法です。 「物を大事にする文化」として最近では世界的に認知され、学びにくる外国の方も増えているようです。 漆を扱う者として漆に関係することはちゃんと知っておかなくてはと思い(できれば仕事に結びつかないかななんて思いもあり)、ちょっと掘り下げておこうと思ったのです。 そこで色々本を読んだり、人に話を聞きに行ったりしています。   100均で日常使う器が全て揃ってしまうこのご時世。 なぜ割れた器をかけた皿をお金と時間を使って修理するのか。…